ハルカは久しぶりに明星出版を訪れた。社長の会田はあいにく留守だった。
「屋上にいますので、帰っていらしたら呼んで下さい」
会田の秘書にそう言い残して、屋上に上がった。
二十分ほどして、会田が屋上にやって来た。
「やあ、ハルカさん、お久しぶりです」
「こちらこそ、ご無沙汰しています」
「で、今日は何を」
「確認したいことがありまして」
「確認したいこととは」
「会田社長、あなたのことです。あなた自身のことです」
「私のこと?と言いますと?」
「十二年前のあの事件にあなたがどう関わっているのかを確認したいのですよ」
「十二年前というと、ハルカさんのお父様がお亡くなりになった事件ですか」
「いえ、その後の一連の事件ですよ。私の母や柳田さんの事件」
「お母様や柳田さんの事件、私は全く関わりがありませんが」
「私が父の事件を調べにキルト共和国に赴任し、そして帰国した後、あなたのところに伺った際、日本から送金されたお金の行き先について、あなたに話したことを覚えていますか」
「ええ、覚えてますよ」
「私はそう言っただけなのに、あなたは送金されたお金の金額が三六0万ユーロだということ、そして、スイスの銀行の口座を通って「政界」に流れたって言いました。これって、最初からあなたはそれを知っていたってことですよね」
「…・・・…・・・」
「疑問に思ったのはそれが最初でした。次に変だと思ったのは、島田が私を多摩の霊園で狙ったこと。それまで、ずっと私をそのままにしていたのに、あなたに会って、島田が母を殺したと話した翌日に来るって、あまりにもタイミングが良すぎます。多分、あなたが今村か島田に直接、あるいは、つながりのあった望月を通じて、島田にやらせたことでしょう。母が殺されてから、二年たって、あなたが私のところを訪れたのは、島田が母を殺したという事実を私が覚えているか確認するため。違いますか?」
「…・・・・・・・・・」
「それに今村と島田が殺された時、警察は島田については、ハチによるショック死、今村については、飼い犬に噛み殺されたとマスコミに発表していたけど、死体の状況までは詳しく言ってません。なのに、あなたはそれが悲惨な状況だったとおっしゃいました。それは、堂島や黒川から、警察の捜査情報を聞いていたのではありませんか?」
会田は何も言わず、固まっていた。ハルカが続けた。
「そして、決定的だったのは、柳田さんが殺された事件のことです。あなたは屋上で柳田さんと島田らしい男が争っていたと言う通報があったと言いました」
会田はまだ黙ったままだった。
「でも、その通報内容がおかしいのです。帝都ビルって二十五階建ての高層ビルで、屋上のフェンスは事故防止のため、端より五メートルくらい内側にあるんです。周りのどこからも、帝都ビルの屋上で争っている姿を目撃することはできないのです」
「そんな通報はなかったと」
「いいえ、通報はありました。公衆電話から。警視庁の友達に確認したんです。でも、今言ったように何の関係もない人がそんな通報することは考えられません。だから、通報したのはあなたです。そして、柳田さんを殺したのもあなたでしょう。あんな通報したのは、島田を切ってもいいと思っていたのでしょうね。島田、今村が殺された後、あなたを訪れた私に「外務省に関係する二人」とおっしゃったのもそれで説明がつきます。あなたは実は十ニ年前から私を監視して、情報をこの前死んだ堂島たちに流していたんでしょう?」
会田が居直ったように言った。
「そんな証拠はどこにもないでしょう」
【秘密のハルカの最新記事】


